日本における英訳についての率直な意見

数ヶ月前に、Japan Timesで下記の記事を拝読しました。

Why English translation needs the native touch

筆者は日本に長年日本在住で、特に日本の商業文化に精通しているRochelle Kopp氏です。内容で言いますと、オリンピックに向けて新国立競技場が開場された際、当所で使われた英訳に不自然な表記が多く目立ったことです。オリンピック開催に向けて、「日本はグローバルだ」と訴えようとしている中で、変な翻訳で恥をかかせる失脚とも言えるのではないかと思います。2019年の大阪メトロの(正直にいうと)デタラメ駅名英訳も連想させる事件です。

Kopp氏が分析するに、自動翻訳に対する依存、非ネイティブの社員による翻訳やネイティブチェックの省略が理由として挙げられています。一言で言うと、「翻訳の原則」に抵触する商業習慣が多く、日本全体における英訳ミスの連発につながっているのではないかという内容です。

自分も仕事の一部として日英翻訳をやっている身として、あまりにも共感したのでFacebookで下記の長文投稿をしました。情報が残らないFacebookだけに残すことももったいないと思って、「僕にとってしかるべき翻訳とは」についての感想を述べるついでにこちらのブログにも貼り付けておきます。

投稿原文

今、フリーランスの仕事の一部として翻訳をやっている中で、日本ではネイティブ翻訳の重要性に対する理解度が低いと強く感じます。

翻訳が実は非常の奥深いもので、単純に「翻訳」もあれば、上乗せでコピーライティングやローカリーゼーションもあります。後者の世界になればフォント選びも必要になってきます。(ちなみに今の日本の英語ウェブサイトで使われている半分以上の英語フォントは非常にみにくいです。)

その奥深さを説明するためには、僕が日本に来て一番感動した英訳を一つの例としてあげます。実はトイレのウォッシュレットの「音姫」です。皆さんはこれを翻訳するとどのように翻訳しますか?

現状でしたらそのまま「OTOHIME」になることは多いでしょうが、これはどう考えても伝わりません。ちょっとマシなのは「Sound」とか「Music」もありうるでしょうが、便座に座っている外国人から見てなんでSoundかMusicが必要なのかは不明です。

感動したのは「Privacy」という翻訳を見た時です。これならバッチリかなと。作った人は意図せずに偶発的に起きただけの話なのかもしれませんが、Privacyと「♪」がついているこのボタンを押すと音でPrivacyが確保されるということが伝わります。

このように「伝わる翻訳」には語学力の上の、クリエイティビティーが必要です。そして情報の正確性を確保するためにはネイティブの感覚が不可欠です。なのに、現状でいうと日本で料金体系とか契約とか利用規約とか外国人むけの広告が一年アメリカ留学した社員とかに投げられるケースが多いのではないですか?

ちなみに僕の感覚でいうと、日本における70%の英文は誤訳であり、20%は誤訳ではないが、イタイ英文です。今町中によく見かける観光客向けの「Let’s~」とか「Why don’t~」は後者に入っています。これは日本語の「〜ましょう」と「〜ませんか」のそのままの直訳ですが、ネイティブからしては非常にダサくて幼稚園生に向けて喋るような表現です。

「インバウンド」とか「海外進出」などのテーマがホットになっている中、翻訳に対するあまり理解だけではいろいろうまくいきません。海外の人とのコミュニケーションを取るためには、日本人目線・日本語の表現の直訳ではなく、その人にあったしかるべき表現が必要です。

翻訳というのは、ケチって自動翻訳とか、自前で仕上げるとか、「英語ができる」と思うプロではない人に物事を投げて済むものではありません。翻訳者に対して払う翻訳費にはその価値があるからこそ成立することに対する理解がより一層必要ではないかと思います。

おまけ

これだけではこの記事を終わらせたくないので、2012年来日してから数日後、大阪大学でもらった健康診断の尿検査についての指示書を下に貼り付けます。

画質が悪くて読みづらいですが、とりあえずもらった英語母語者は全員爆笑。何がおかしいか?と思う人は上の画像をお友達の英語話者に是非お見せください。

今ふりあえると、PenとかPeepoleなどの表記はなぜかピコ太郎を連想しちゃうですけどね…

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